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コラム

間違えやすいポイントを解消!固定資産・減価償却の適正な会計処理と税務対応

導入

企業が事業活動のために所有する建物や機械装置といった固定資産の取得価額算定と減価償却費の計上は、法人税務の基礎でありながら非常に奥深い分野です。固定資産の取得価額に含めるべき費用と含めなくてもよい費用の判断や、減価償却の方法の選択を間違ってしまうと、企業のキャッシュフロー悪化や、税務調査による追徴課税を招いてしまうリスクがあります。本記事は、固定資産の税務上の定義と分類から、減価償却費を損金算入するための要件、そして具体的な償却方法について、間違えやすい注意点にも言及しながら、法令の根拠に基づき詳しく解説します。

この記事の結論

固定資産の取得価額は、購入代金、引取運賃などの付随費用、据付試運転費などの事業供用費用を合算して算定します。不動産取得税や登録免許税などは、取得価額に含めず損金算入することが可能ですが、費用の性質に応じた適切な時期に損金算入する必要がある点には注意が必要です。

取得価額が10万円未満の資産は全額損金算入できるほか、取得価額が20万円未満の一括償却資産も資産計上する必要はありません。また、青色申告の中小企業者等(資本金1億円以下など)は取得価額30万円未満の資産まで損金算入可能です(事業年度あたり300万円が限度)。

減価償却については、減価償却費の損金算入額が原則として償却費として経理した金額のうち税法に定める償却限度額に達するまでの金額である点と、減価償却の方法は建物が定額法に限定されるなど、資産の種類と取得年月日によって適用可能な方法が異なる点に注意が必要です。正確な税務処理と有利な選択のためには、複雑な法令を理解した税理士へご相談されるとよいでしょう。

固定資産と減価償却の基本

固定資産とは

固定資産とは、事業のために1年以上の期間使用する資産のことを言います。固定資産は、建物や機械装置といった目に見える「有形固定資産」と、商標権やソフトウェアといった目に見えない「無形固定資産」に大別されます。

法人税法においては、固定資産は「土地(土地の上に存する権利を含む。)、減価償却資産、電話加入権その他の資産で政令で定めるものをいう」と定義されています(法人税法2条22号。以下、法人税法を「法」、法人税法施行令を「法令」、租税特別措置法を「措置法」とそれぞれ略します)。また、政令において、棚卸資産、有価証券、暗号資産及び繰延資産以外の資産のうち、次のものが固定資産に該当するものとされています(法令12条)。

一 土地(土地の上に存する権利を含む。)
二 次条各号に掲げる資産(減価償却資産)
三 電話加入権
四 前三号に掲げる資産に準ずるもの

また、ここでいう「減価償却資産」とは、「建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう」と定義されています(法2条23号)。

減価償却とは

減価償却とは、時間の経過や使用によって価値が減少していく固定資産(減価償却資産)の取得価額を、その資産の利用可能期間(耐用年数)にわたって、規則的・計画的に費用として配分していく会計上の手続きのことを言います。企業会計原則・同注解では次のように説明しています。

資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならない。有形固定資産は、当該資産の耐用期間にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分し、無形固定資産は、当該資産の有効期間にわたり、一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分しなければならない。

出典:企業会計審議会 企業会計原則・同注解
https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=81

減価償却費の損金算入

減価償却費の損金算入額は、原則として償却費として経理した金額のうち、税法に定める償却限度額に達するまでの金額です。この点、法人税法では次のとおり規定しています(法31条2項)。

内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(…)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(・・・)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(・・・)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。

減価償却費の損金算入額は、企業会計において減価償却費その他一定の費用として経理した金額を計算の基礎にするため、企業会計で費用計上せず、税務申告調整で減価償却費を損金算入することは認められていない点に注意が必要です。なお、「減価償却費その他一定の費用として経理した金額」の詳細については、法人税基本通達7-5-1から7-5-3までをご参照ください。

参考:国税庁 法令解釈通達
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_05.htm

固定資産の取得価額

取得価額の原則

固定資産の取得価額は、取得した方法に応じて次のように定められています(自己が生育、成熟させた生物と、適格合併等によって移転を受けた資産については説明を省略します)。

取得した方法取得価額の構成要素根拠法令
購入①から③の合計額
  1. 当該資産の購入代金
  2. 当該資産の購入のために要した費用の額(たとえば、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(一定のものを除く)など)
  3. 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
法令54条1項1号
自己で建設、製作または製造①と②の合計額
  1. 当該資産の建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額
  2. 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
同項2号
上記以外①と②の合計額
  1. その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額
  2. 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
同項6号

たとえば、自動車部品メーカーであるA社が部品製造用の機械を購入する際に、本体価格100万円と配送料10万円のほか、据付試運転費20万円と初期設定費5万円を支払った場合、固定資産に計上すべき金額はいくらでしょうか。

本体価格100万円は「当該資産の購入代金」に、配送料10万円は「当該資産の購入のために要した費用の額」に、据付試運転費20万円と初期設定費5万円は「当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額」にそれぞれ該当するため、これらの費用の合計額である135万円を固定資産の額に計上することになります。

なお、法42条から50条までに規定される圧縮記帳の適用を受け、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入された金額がある場合には、当初の取得価額から損金算入された金額を控除した金額が取得価額であるとみなされます(法令54条3項)。

取得価額に算入しないことができる費用

減価償却資産の取得に関連して支出した費用であっても、次のような費用の額は取得価額に算入しないことができます(法人税基本通達7-3-3の2)。

  • 不動産取得税、自動車取得税、登録免許税その他登記または登録のために要する費用
  • 建物の建設等のために行った調査、測量、設計、基礎工事等でその建設計画を変更したことにより不要となったものに係る費用の額
  • いったん締結した固定資産の取得に関する契約を解除して他の固定資産を取得することとした場合に支出する違約金の額

また、次のような費用の額は、ソフトウエアの取得価額に算入しないことができます(法人税基本通達7-3-15の3)。

  • 自己の製作に係るソフトウエアの製作計画の変更等により、いわゆる仕損じがあったため不要となったことが明らかなものに係る費用の額
  • 研究開発費の額(自社利用のソフトウエアに係る研究開発費の額については、その自社利用のソフトウエアの利用により将来の収益獲得または費用削減にならないことが明らかな場合における当該研究開発費の額に限る)
  • 製作等のために要した間接費、付随費用等で、その費用の額の合計額が少額(その製作原価のおおむね3%以内の金額)であるもの

固定資産の取得価額に算入しなかった費用は、それぞれの費用に応じた時期に損金算入します。たとえば、不動産取得税や自動車取得税といった賦課課税方式の租税公課は、原則として賦課決定のあった日の属する事業年度に損金算入しますが、法人がその納付すべき税額について納期の開始の日の属する事業年度または実際に納付した日の属する事業年度において損金経理をした場合には、当該事業年度において損金算入します(法人税基本通達9-5-1(2))。この点、固定資産の取得価額に算入しなかった費用は任意のタイミングで損金算入できるわけではないことにご注意ください。

固定資産に計上する必要がない場合

取得価額が10万円未満の資産、もしくは使用可能期間が1年未満の資産について、当該資産を事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は損金算入されます(法令133条1項)。そのため、固定資産に計上する必要はありません。

また、取得価額が20万円未満の資産(これを一括償却資産といいます)についても、一括償却資産を事業供用した事業年度において取得価額を損金経理したときは、その取得価額の3分の1を当該事業年度の、残りの3分の1ずつを翌事業年度及び翌々事業年度にそれぞれ損金算入します(法令133条の2第1項)。そのため、法133条1項に規定する資産と同じく、一括償却資産についても固定資産に計上する必要はありません。

さらに、青色申告書を提出する中小企業者等が事業の用に供した減価償却資産のうち取得価額が30万円未満を損金経理したときは、その損金経理をした金額は損金算入されます(措置法67条の5第1項。ただし1事業年度300万円までという上限があります)。そのため、適用要件を満たす中小企業者等は、上限に達するまでは取得価額が20万円以上30万円未満の減価償却資産についても固定資産に計上する必要はありません。

なお、ここでいう「中小企業者等」とは、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の法人のうち、単一の大規模法人に発行済株式総数の2分の1以上を保有されている、もしくは複数の大規模法人に発行済株式総数の3分の2以上を保有されている等の要件を満たさない法人のことをいいます(措置法42条の4第19項第7号、措置法施行令27条の4第17項)。詳しくは国税庁のタックスアンサーをご参照ください。

参考:国税庁タックスアンサー No.5432 措置法上の中小法人及び中小企業者
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5432.htm

減価償却の方法

資産の種類ごとの償却方法

主要な資産の主な償却方法は次のとおりです(法48条)。資産の種類ごとだけでなく、資産の取得年月日によって適用できる償却方法に違いがある点には注意が必要です。

資産の種類 取得年月日 償却方法
建物 1998年3月31日以前 旧定額法または旧定率法
1998年4月1日以降、2007年3月31日以前 旧定額法
2007年4月1日以降 定額法
建物附属設備
構築物
2007年3月31日以前 旧定額法または旧定率法
2007年4月1日以降、2016年3月31日以前 定額法または定率法
2017年4月1日以降 定額法
機械及び装置
車両及び運搬具
工具、器具及び備品
2007年3月31日以前 旧定額法または旧定率法
2007年4月1日以降 定額法または定率法

なお、土地や一定の美術工芸品等は、減価償却資産の範囲のうち「時の経過によりその価値の減少しないもの」(法令13条1項)には該当しないため、減価償却は行いません。具体的には、次の美術工芸品は時の経過によりその価値の減少しないものに該当します(法人税基本通達7-1-1)。

  • 古美術品、古文書、出土品、遺物等のように歴史的価値又は希少価値を有し、代替性のないもの
  • 上記以外の美術品等で、取得価額が1点100万円以上であるもの(時の経過によりその価値が減少することが明らかなものを除く)

定額法と定率法

定額法は資産の取得価額に定額法償却率を乗じた金額を減価償却費とする方法で、定率法は取得価額から既償却額を控除した金額に定率法償却率を乗じた金額を減価償却費とする方法です。

定額法のメリットは計算が簡便であることで、定率法のメリットは事業供用の初期段階において多くの減価償却費を計上できることです。具体的な計算例は国税庁のタックスアンサーをご参照ください。

参考:国税庁タックスアンサー No.5410減価償却資産の償却限度額の計算方法
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5410.htm

まとめ

固定資産と減価償却に関する税務は、法人の所得計算の根幹をなす要素であり、正確な処理が求められます。特に、取得価額に含めるべき付随費用や、損金算入が可能な少額資産の特例規定は、企業の税負担やキャッシュフローに直結する重要事項です。また、償却方法の選択や、適用できる特例の要件(中小企業者の定義など)は、複雑な法令や通達に基づいており、誤った処理は税務調査で指摘を受けるリスクを高めます。

本記事でご紹介した基本知識はあくまで一般的なものであり、各社の資産の状況、企業の事業年度や会計方針に合わせて、最も有利かつ適正な処理を適用するには、専門家による個別具体的な判断が不可欠です。貴社の適正な税務処理と経営の安定化のために、ぜひお近くの税理士にご相談ください。