
事業を営む上で、パソコンやレジ、商品棚や製造機械といった償却資産の所有は不可欠です。これらの資産には、土地や家屋と同様に固定資産税が課税され、そのうち償却資産にかかる部分を一般に「償却資産税」と呼びます。
償却資産税は、企業の税務申告において法人税や所得税とは異なるルールが適用されるため、その計算や手続きには注意が必要です。特に、申告から課税までの流れや、法人税の計算とは異なる評価額の算定方法、さらには特例の適用を受けた資産の取り扱いなどは、実務担当者にとって間違いやすいポイントとなります。
本記事では、償却資産税の概要から根拠法令、課税対象となる資産の範囲、そして課税標準額や税額の具体的な計算方法までを、事例を交えながら分かりやすく解説します。
償却資産税は賦課課税方式が採用されており、毎年1月1日時点における償却資産の所有者が納税義務を負います。納税者は毎年1月31日までに償却資産を申告する必要があります。
償却資産税の申告で特に重要なのは、評価額の算定方法が法人税と異なる点です。法人税で適用される圧縮記帳や少額資産の損金算入の特例は、償却資産税の取得価額計算においては考慮されません。また、償却は旧定率法に基づく減価残存率のみを用い、評価額の最低限度は取得価額の5%です。
償却資産税の税額は課税標準額に税率を乗じて算します。標準税率は1.4%ですが、税率が1.5%や1.6%である自治体もあるため、適用税率を自治体のホームページなどで確認することが重要です。
償却資産税とは、地方税のうち固定資産税を構成する要素の一つで、土地や家屋と並び課税の対象となる償却資産にかかる税金です。固定資産税における「固定資産」とは土地、家屋及び償却資産を総称するものであり(地方税法341条1項1号。以下、地方税法を単に「法」といいます。)、固定資産税はこれらの固定資産を課税客体として、固定資産が所在する市町村において課税がなされます(法342条1項)。
以下、固定資産税のうち償却資産にかかる部分(以下、この部分を「償却資産税」といいます。)に絞って解説を行います。
償却資産税は償却資産の所有者に対して課税されます(法343条1項)。ここでいう「償却資産の所有者」は償却資産課税台帳に所有者として登録されている者を意味し(同条3項)、償却資産税の賦課期日は毎年1月1日であることから(法359条)、償却資産課税台帳にその年の1月1日時点の所有者として登録されている者が、当該償却資産に係る償却資産税の納税義務を負います。
償却資産税の「償却資産」は、次のように定義されています(法341条1項4号)。
| 土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産(鉱業権、漁業権、特許権その他の無形減価償却資産を除く。)でその減価償却額または減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもののうちその取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のもの(後半省略) |
具体的な償却資産の範囲については追って紹介します。
納付すべき税額の確定方式には、納税者が自分でその所得金額や納付すべき税額を計算してそれに基づいて申告し納付するという「申告納税方式」と、税務官庁によって納付すべき税額が決定される「賦課課税方式」があり、償却資産税は賦課課税方式が採用されています。法人税や消費税といった申告納税方式の税金は申告と納付を同時期に行いますが、賦課課税方式の税金は税額の決定を税務官庁が行う関係で、申告と納付の間にタイムラグが発生します。
償却資産税の申告から課税までの流れは次のとおりです(東京都23区の場合)。
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参考:東京都ホームページ 償却資産の申告から課税までのながれ
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/work/shokyak_sis
償却資産税は償却資産に対して課税される税金ですが、具体的にはどういった資産が課税対象になるのでしょうか。業種ごとの具体的な資産を、東京都のホームページから抜粋してご紹介します。
| 業種 | 具体的な資産の例 |
| 業種共通 | パソコン、コピー機、ルームエアコン、応接セットなど |
| 小売業 | 陳列棚、陳列ケースなど |
| 製造業 | 製造設備、旋盤、ボール盤、梱包機など |
なお、上記の資産が1月1日の時点で固定資産に計上されていなかったり、あるいは未稼働や遊休状態にあったりした場合でも、事業の用に供することができる(本来の目的に使用することができる)状態にあるのであれば償却資産税が課税されるため、申告が必要です。
出典:東京都ホームページ 償却資産の具体例
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/work/shokyak_sis
償却資産税の取得価額の考え方は、法人税法における固定資産の取得価額の考え方と大部分は同じですが、次の点は法人税と異なります。
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少額の減価償却資産(取得価額10万円未満)や一括償却資産(取得価額20万円未満)については、法人税において資産計上しなければ償却資産税の課税標準額に含まれませんが、資産計上して個別償却する場合は含まれます。
償却資産税の課税標準額に含めるべき対象については次の図をご参照ください。

出典:固定資産税(償却資産)申告対象資産に関するQ&A 問7
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/work/shokyak_sis
個別資産の評価額は次のとおり計算します。
| 前年中に取得した資産:取得価額 × 減価残存率 上記以外:前年度評価額 × 減価残存率 |
償却資産税は法人税のように償却方法を選択することはできず、償却率は減価残存率のみです。この減価残存率は法人税法における旧定率法によるものであるため、前年中に取得した資産以外の資産は、取得価額ではなく前年度評価額に減価残存率を乗じて計算します。たとえば、2023年5月に取得した固定資産(取得価額1,000,000円)の前年度評価額が815,000円、減価残存率が0.631の場合、評価額は514,265円と計算されます。
なお、前年中の新規取得資産は月数按分せず、所有期間が半年であるとみなして計算するため、前年中に取得した資産とそれ以外の資産では、適用する減価残存率の表が異なります。たとえば上記の資産の場合、前年中の新規取得資産の減価残存率は0.815、前年より前に取得した資産の減価残存率は0.631です。耐用年数ごとの減価残存率は総務省のホームページに掲載されている資料をご参照ください。
参考:総務省ホームページ
https://www.soumu.go.jp/main_content/000849776.pdf
なお、取得価額の5%が評価額の最低限度額とされているため、評価額が0円や1円になることはありません。たとえば、取得価額が1,000,000円の資産の最低評価額は50,000円です。
償却資産税の標準税率は1.4%であり(法350条1項)、多くの自治体が1.4%の税率を採用していますが、1.5%(たとえば鳥取市)、1.6%(たとえば秋田市)、1.7%(たとえば宮崎県美郷町)の税率が条例により制定されている自治体も存在します。
参考:鳥取市ホームページ
https://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1190269880037/index.html
参考:秋田市ホームページ
https://www.city.akita.lg.jp/kurashi/zeikin/1003659/1002769.html
参考:宮崎県美郷町ホームページ
https://www.town.miyazaki-misato.lg.jp/kiji00368/index.html
償却資産税の課税標準額は、個別資産の評価額の合計額から1,000円未満を切り捨てて計算します。たとえば、個別資産の評価額の合計額が5,234,567円の場合、課税標準額は5,234,000円です。
償却資産税の税額は、課税標準額に税率を乗じ、100円未満を切り捨てて計算します。たとえば、課税標準額が5,234,000円で税率が1.4%の場合、税額は73,200円です。
この記事のまとめとして、償却資産を東京23区内に所有するA社の償却資産税額のシミュレーションを行います。2025年1月1日時点においてA社が所有する資産は次のとおりであり、耐用年数5年の減価残存率は前年中取得のものが0.815、それ以外が0.631です。
| 資産番号 | 法人税における取得価額 | 取得年月 | 前年度評価額 | 耐用年数 |
| 資産1 | 1,000,000円 | 2023年 | 815,000円 | 5年 |
| 資産2 | 500,000円 | 2024年 | なし | 5年 |
| 資産3 | 0円 少額資産の損金算入の特例の適用を受けた資産。適用前の取得価額は250,000円 | 2024年 | なし | 5年 |
| 資産4 | 2,000,000円 国庫補助金の圧縮記帳適用を受けた資産。適用前の取得価額は4,000,000円 | 2024年 | なし | 5年 |
| 資産5 | 1,000,000円 | 2010年 | 50,000円 | 5年 |
まず資産1は、2023年に取得した資産であるため、前年度評価額である815,000円に減価残存率0.631を乗じた514,265円が評価額です(この時点では1,000円未満切り捨てはしません)。
次に資産2は、前年中に取得した資産であることから、取得価額の500,000円に減価残存率0.815を乗じた407,500円が評価額です。
次に資産3は、租税特別措置法による少額資産の損金算入の特例の適用を受けた資産で、法人税においては資産計上しませんが、償却資産税では課税されるため評価額の計算が必要です。評価額は、取得価額250,000円に減価残存率0.815を乗じた203,750円です。
次に資産4は、法人税法による圧縮記帳の規定の適用を受けた資産で、法人税における資産計上額は圧縮後の2,000,000円ですが、償却資産税においては圧縮前の4,000,000円をもとに評価額を計算します。評価額は、取得価額4,000,000円に減価残存率0.815を乗じた3,260,000円です。
最後に資産5は、前年度評価額(50,000円)がすでに取得価額の5%と同額であることから、これ以上評価額を減らすことはしません。よって、評価額は50,000円です。
資産1から資産5までの評価額の合計額は4,435,515円で、これを1,000円未満切り捨てした4,435,000円が課税標準額です。この課税標準額に1.4%の税率を乗じ、100円未満切り捨てした金額(62,000円)がA社の納付すべき償却資産税額となります。
なお、課税標準額が150万円未満の場合、原則として償却資産税は課税されません(地方税法351条)。
以上、固定資産税を構成する要素の一つである償却資産税について、その概要から具体的な計算シミュレーションまでを解説しました。償却資産税は、土地や家屋にかかる固定資産税と同様に賦課課税方式が採用されており、納税者は毎年1月31日までに資産の申告を行う必要があります。
特に注意すべきは、法人税における圧縮記帳や少額資産の損金算入の特例などが、償却資産税の評価額計算では考慮されない点です。法人税との違いを理解し、正しい取得価額や減価残存率を用いて評価額を算定することが、正確な納税につながります。また、自治体によっては税率が異なる場合があるため、所在地の税率を確認することも重要です。
償却資産の範囲の判定、評価額の計算、申告手続きなど、ご不明な点やより詳細な判断が必要な場合はお近くの税理士にご相談ください。