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コラム

詳しく解説!新NISAにおける株式投資のメリットと注意点

導入

2024年1月より、日本の個人投資家にとって資産形成の大きな転機となる新しいNISA(新NISA)制度がスタートしました。令和5年度の税制改正により、従来のNISA制度から抜本的に見直され、非課税で投資できる限度額や期間が大幅に拡充されています。特に、「非課税保有期間の無期限化」と「生涯非課税限度額1,800万円」の創設は、長期的な視点での資産形成を強力に後押しするものです。

この記事では、旧NISAと比較しながら、新NISAの制度の概要と、個人の資産形成においてどのようなメリットがあるのかを詳しく解説します。また、最大限に制度を活用するために知っておくべき注意点や、売却時、相続時といった具体的なケースでの対応についてもご紹介します。

この記事の結論

2024年に開始された新NISAは、旧NISAから大幅に制度が拡充され、個人の長期的な資産形成を強力に支援します。最大のメリットは非課税保有期間の無期限化と生涯非課税限度額1,800万円の創設です。年間の非課税投資枠も360万円(旧NISAの最大3倍)に増加しました。これにより、例えば年間利回り4%の投資で1,800万円を運用すれば、毎年72万円の配当金が非課税で受け取れる計算になります。ただし、運用益が非課税になる一方で、損失(譲渡損)が生じた際の損益通算や繰越控除は旧NISA同様にできません。また、売却時は取得価額相当の非課税枠が翌年以降に復活する一方、相続時は非課税期間が終了し、払い出された株式等は相続人の課税口座へ移管されるなど、具体的な手続きと税務上の取り扱いを正しく理解して活用することが重要です。

新NISAの概要とメリット

旧NISAと新NISAの比較

令和5年度(2023年度)税制改正によって既存のNISA(Nippon Individual Savings Account、少額投資非課税制度)が改組され、2024年1月から新しいNISA制度(新NISA)が始まりました(租税特別措置法37条の14及び同法施行令25条の13の2。以下、令和5年度税制改正前のNISAを「旧NISA」、改正後のNISAを「新NISA」といいます。)。

制度の改組による最大の変更点は、非課税限度額の拡充と非課税保有期間の無期限化です。主要な変更点は次のとおりです。

旧NISA新NISA
非課税限度額一般NISA:年120万円
つみたてNISA:年40万円
年360万円
(生涯で1,800万円)
非課税期間一般NISA:5年
つみたてNISA:20年
無期限

その他の変更点は財務省が作成した税制改正説明資料をご参照ください。

旧NISAと新NISAの比較

出典:財務省 租税特別措置法等(所得税関係)の改正
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2023/explanation/PDF/p0113-0249.pdf

新NISAのメリット

旧NISAと比較した新NISAのメリットとしては、次の3点が挙げられます。

  • 非課税保有期間が無期限化した点
  • 年間の非課税投資限度額が大幅に増加した点(120万円または40万円→360万円)
  • 生涯非課税限度額が大幅に増加した点(600万円または800万円→1,800万円)

まず1点目について、旧NISAにおいて非課税保有期間は有限でしたが(一般NISAは5年、つみたてNISAは20年)、この非課税保有期間は新NISAで無期限化したため、長い期間非課税のままで株式等を保有することが可能となりました。

次に2点目について、旧NISAにおいける年間の非課税投資限度額は一般NISAで120万円、つみたてNISAで40万円と、個人の資産形成の観点からは十分な金額とは言えませんでした。これが新NISAにおいては年間360万円と、一般NISAの3倍、つみたてNISAの9倍にまで拡充しました。年間の非課税投資限度額が大幅に拡充されたことにより、より多額の非課税投資を短期間で行うことが可能となり、個人の財産形成もしやすくなりました。

最後に3点目について、一般NISAにおける通算の非課税限度額は120万円に5年を乗じた600万円、つみたてNISAにおける非課税限度額は40万円に20年を乗じた800万円でしたが、新NISAにおいてはこれが1,800万円に増加します。生涯の非課税限度額として1,800万円という金額が多いと感じるか少ないと感じるかの捉え方は人それぞれでしょうが、たとえば年間利回りが4%の株式に1,800万円を投資すると毎年72万円の配当金を受け取ることができることから、多くの人にとって生活資金を下支えする大きな役割を果たす存在になると思われます。

以上、新NISAの概要とメリットについて、旧NISAと比較して解説しました。次のセクションでは新NISAの注意点について解説します。

新NISAの注意点

注意点の概要

新NISAの注意点としては、損失が生じた場合に他の口座との損益通算や繰越控除ができない点と、選択できる金融商品が限定されている点が挙げられます(なお、これらの注意点は旧NISAにおいても同様でした)。以下、2点の注意点について具体的に解説します。

譲渡損の損益通算や繰越控除ができない

新NISAの最大のメリットは運用益が非課税になることですが、その非課税の枠内で発生した損失(譲渡損)については、税制上の優遇措置が適用されません。具体的には、損益通算と繰越控除の制度が利用できないという制約があります。

損益通算ができない制約

損益通算とは、原則として確定申告によって、同一年内において発生した上場株式等の譲渡損失の額と上場株式等に係る配当所得の金額を相殺することができる制度を言います(源泉徴収ありの特定口座の場合、確定申告をせずとも、同一の特定口座内における損益通算が可能です)。新NISA口座ではこの損益通算の適用を受けることができないため、新NISA口座内で損失が出ても、他の課税口座(特定口座や一般口座)で得た利益と相殺することはできません。

たとえば、口座甲で上場株式Aを譲渡して100万円の譲渡損が発生し、特定口座乙で上場株式Bを譲渡して150万円の譲渡益が発生したとします。この場合、口座甲が特定口座であれば、100万円の譲渡損と150万円の譲渡益を相殺して50万円が課税所得となりますが、口座甲が新NISA口座の場合は100万円の譲渡損はなかったものとみなされることから、特定口座乙の株式譲渡益150万円が課税所得となってしまいます。

繰越控除が適用されない制約

繰越控除とは、上場株式等の譲渡損失を最大3年に渡って繰り越し、翌年以降に生じた譲渡所得から控除することができる制度です。この繰越控除も新NISA口座においては適用がありません。

たとえば、2025年に口座丙で上場株式Cを譲渡して100万円の譲渡損失が発生し、確定申告によってこれを繰り越した上で、2026年に同じ丙で上場株式Dを譲渡して150万円の譲渡所得が生じたとします。この場合、口座丙がNISA口座以外の口座である場合は、2026年の確定申告において150万円の譲渡所得から100万円の繰越損失を控除した50万円が課税所得となります。一方、口座丙が新NISA口座の場合、2025年の譲渡損失はなかったものとみなされ、2026年の譲渡所得は非課税とされることから、2025年に生じた譲渡損失によって将来の税金を削減する効果は得られません。

以上のように、新NISAは譲渡所得が生じた場合には税金が課税されない(非課税である)一方、譲渡損失が生じた場合にはその譲渡損失によって将来の税金を減らすこともできません。この点、「新NISA口座は利益が出ても損失が出ても課税関係が生じない制度である」と言うことができるでしょう。

選択できる金融商品が限定されている

新NISAのもう一つの注意点として、投資対象となる金融商品が従来の課税口座(特定口座や一般口座)に比べて限定されている点が挙げられます。これは、制度の趣旨である「国民の安定的な資産形成の促進」を確実に実現するために、国が一定の基準を設けているためです。投資枠によって対象商品が異なり、以下のようになっています。

長期の積立・分散投資に適した商品が中心となる「つみたて投資枠」では、金融庁が定める基準を満たした投資信託とETFのみが対象です。これは、リスクを抑えつつ資産形成を行うことを目的としているため、個別株式への投資はできません。

また、幅広い商品に投資可能な「成長投資枠」では、上場株式、ETF、REIT、幅広い投資信託などが対象となります。しかし、この枠でもすべての商品に投資できるわけではありません。高レバレッジ型投信や、頻繁に利益を分配する毎月分配型の投資信託など、短期的な取引やリスクの高い商品の一部は除外されています。

したがって、新NISAを利用する際は、ご自身が希望する投資商品がどちらの枠で購入可能か、または新NISAの対象外となっていないかを事前に確認することが重要です。

参考:国税庁 新NISAのあらまし
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nisa/pdf/shinnisa.pdf

参考:金融庁 NISAを利用する皆さまへ
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/slide_202406.pdf

新NISA、こんなときどうする?

新NISA口座の株式を売却した場合

新NISA口座で保有している株式や投資信託を売却した場合、その売却益は非課税となります。これは、NISA制度の最大のメリットであり、利益の大きさにかかわらず税金が一切かからないため、手取り額を最大化できます。

新NISA口座で株式を売却した場合、年間の非課税投資枠(つみたて投資枠、成長投資枠)は復活しませんが、生涯の非課税投資枠は復活します。この際、復活する非課税投資枠の金額は売却した株式等の購入時の金額であり、この回復した枠は売却した年の翌年以降に再利用できます。

たとえば、2024年から2028年までの5年間、毎年360万円を投資して新NISA口座に保管している人を例に考えてみます。この人は、2028年時点ですでに生涯投資枠(1,800万円)に達しているため、それ以上新NISA口座に株式等を保管することはできませんが、過去100万円で取得した株式等を2029年中に売却した場合は、2030年以降に追加で100万円を投資することが可能になります。

なお、復活する生涯投資枠は株式等の売却時の金額ではなく、株式等の取得時の金額となる点にご注意ください。たとえば、2024年に100万円で取得した株式を2029年に1,000万円で売却した場合、復活する枠は1,000万円ではなく100万円です。

被相続人が新NISA口座に預けていた株式を相続した場合

被相続人(亡くなった方)が新NISA口座で保有していた株式を相続する場合、その株式は相続発生時に払い出され、非課税の期間はそこで終了します。被相続人の方の非課税投資枠を引き継いで、そのまま相続人の新NISA口座で保有し続けられるわけではありません。

具体的な取り扱いは次のとおりです。

まず、新NISA口座を開設している方が死亡した場合は、その相続人は「非課税口座開設者死亡届出書」という届出書を、死亡を知った日以後遅滞なく新NISA口座を開設していた金融商品取引業者等(証券会社など)へ提出する必要があります(租税特別措置法施行令25条の13の5)。この届出により、被相続人の新NISA口座に受け入れられていた上場株式等は払い出され、被相続人が死亡した日の終値に相当する金額をもって売却されたものとみなされます。なお、被相続人の上場株式等の取得価額と死亡した日の終値との差額については、含み益の場合は課税されず、含み損の場合はないものとみなされます。

次に、被相続人の新NISA口座から払い出された上場株式等は、被相続人が死亡した日の終値に相当する金額で相続人が取得したものとして、相続人の特定口座や一般口座へ払い出しがされます。そのため、払い出された後に受け取る配当等や、上場株式等を売却したことによる利益については通常どおり相続人において課税されます。

参考:国税庁 NISA及びつみたてNISAの手続に関するQ&A 問24
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/nisa_qa01.pdf

なお、相続税の観点からは、新NISA口座に受け入れられていた上場株式等に関する特別な取り扱いは存在しないため、特定口座や一般口座に受け入れられていた株式等と同じ方法により相続税評価額が計算されます。

海外赴任になった場合

新NISAは、原則として所得税法上の居住者(日本国内に居住している方など)が利用できる制度です。そのため、海外赴任で日本国内に居住しなくなった場合(非居住者になった場合)は、非課税の恩恵が受けられなくなるのが原則です。

しかし、転任の命令等のやむを得ない事由により一時的に出国する場合には、一定の手続きを事前に行うことで、特例として新NISA口座で保有している上場株式等について引き続き非課税の適用を受けることができます(ただし新規投資を行うことはできません)。この特例の適用期間は、出国日から帰国日までの最大5年間と定められています。この手続きを忘れた場合や、やむを得ない事由と認められない場合は、出国時に新NISA口座が廃止され、新NISA口座に受け入れられていた上場株式等は特定口座または一般口座へ移管されることになります。

なお、これらの取り扱いの有無や、具体的な取り扱いは金融機関ごとに異なるため、詳細はご自身が新NISA口座を開設している証券会社等へお問い合わせください。

参考:金融庁 よくある質問
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/question/

まとめ

新NISA制度は、生涯非課税限度額1,800万円の設定や非課税保有期間の無期限化など、個人の長期的な資産形成を支援するための画期的な制度です。配当金や譲渡益といった運用益が非課税になるという大きなメリットを享受できる一方で、損失時の損益通算や繰越控除ができない点、投資対象商品が限定されている点、海外赴任の場合は一定の手続が必要など、旧NISAと同様に注意すべき点も存在します。制度の恩恵を最大限に受けるためには、ご自身の投資目的やライフプランに合わせて、メリットと注意点をしっかりと理解し、適切な投資戦略を立てることが重要となります。新NISA制度を含む金融商品税制についてご不明点がある場合は、専門知識を持つお近くの税理士にご相談ください。