新型コロナウイルス感染症の影響が長引く中、経営戦略の見直しが迫られているという企業は少なくないのではないでしょうか。
経営資源の有効活用や事業強化のため、組織再編を検討する企業も増加していることが想定されます。

組織再編において、譲渡対価は、基本的には、金銭で支払いますが、合併や株式交換等の場合は対価を買い手企業などの株式とするケースもあります。
通常、組織再編はその実行により、株主や売り手企業に所得税や法人税が課税されます。

しかし、対価を買い手企業等の株式とする場合には、税制適格要件を満たすと税金が課税されないケースがあります。
これは、どういった場合なのでしょうか。
この記事では、M&Aにおける組織再編税制とはどういったものなのか、税制適格要件の概要、メリットと注意点等について詳しく解説します。

是非、ご参考にしてください。


組織再編税制とは?

組織再編税制とは、組織再編行為に関わる課税について包括的に定めた税制度のことです。
平成13年度に導入されました。
一般に、資産を移転する際には、移転資産の譲渡損益に課税するのが原則です。

そのため、組織再編においても、原則としては、移転する資産・負債は時価評価され、課税されることとなります。

しかし合併や会社分割などを含むすべての組織再編において時価評価に伴う課税がなされた場合、多額の税金が発生し、課税が足かせとなって適切な組織再編行為が阻害される恐れがあります。

こういった問題に対応するために組織再編税制が設けられ、税制適格要件を満たす組織再編については、資産・負債を簿価で引き継ぎ、課税が生じないような措置が取られているのです。

この措置は、組織再編により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更がない、すなわち「移転資産に対する支配が再編成後も継続している」と認められる場合は、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べる、との考え方に基づいています。

組織再編の類型

ではここで組織再編の類型について説明しておきます。

合併

合併には、吸収合併と新設合併があります。

  • 吸収合併:会社が他の会社とする合併で、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるもののこと
  • 新設合併:二つ以上の会社がする合併で、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるもののこと

会社分割

会社分割には、吸収分割と新設分割があります。

  • 吸収分割:株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させること
  • 新設分割:一つ又は二つ以上の株式会社又は合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させること

株式交換

株式交換とは、株式会社がその発行済株式(株式会社が発行している株式のこと)の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることです。

株式移転

株式移転とは、一つ又は二つ以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることです。

スクイーズアウト

スクイーズアウトとは、個々の株主の個別の同意を得ることなく金銭を対価として株式を取得する方法のことです。

スピンオフ

スピンオフとは、自社内の特定の事業部門又は子会社を切り出し、独立させるものです。

独立した会社の株式は元の会社の株主に交付されます。

スピンオフは、自社内の特定の事業部門を切り出す場合は新設分割、子会社を切り出す場合はいわゆる現物配当により行います。

組織再編税制の適格要件

組織再編税制の際の適格要件として、具体的には、以下のものがあります。

金銭等不交付要件

完全支配関係がある会社間の組織再編で、親会社の株式以外の資産が対価として交付されないこと

支配関係継続要件

組織再編前に支配関係があり、組織再編後にも支配関係の継続が見込まれていること

按分型要件

対価となる株式が組織再編前の各株主の有する株式の数の割合に応じて交付されること

主要資産等引継要件

分割法人の分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していること

従業者引継要件

組織再編の対象となった会社(被合併法人等)の従業員の概ね80%以上に相当する数が、引き続き再編後の会社の業務に従事することが見込まれること

事業継続要件

組織再編の対象となった会社(被合併法人等)が営む主要な事業が、引き続き再編後の会社において営まれることが見込まれること

事業関連性要件

組織再編の当事者となる会社間で、主要な事業同士が相互に関連するものであること

事業規模要件

組織再編の当事者となる会社間の事業規模の差が概ね5倍以内であること
(事業規模の判定は、売上高・従業員数・資本金のいずれかの指標で5倍以内の要件を充たせばよい)

特定役員引継要件

組織再編の対象となる会社(被合併法人等)の特定役員(常務取締役以上)が再編後の会社の特定役員になる見込みであること

株式継続保有要件

組織再編において交付される株式について、組織再編の対象となる会社(被合併法人等)の支配株主に交付されるものの全部が当該支配株主により継続して保有されることが見込まれていること

完全親子関係継続要件

完全支配関係が継続することが見込まれること

非支配関係要件

スピンオフ前に他の者による支配関係がなく、スピンオフ後も他の者による支配関係がないことが見込まれていること

税制適格要件の内容

税制適格要件は、組織再編を実施する会社間の資本関係に応じて異なります。
即ち、資本関係に応じて以下の3パターンに分けられ、各々異なる適格要件が定められています。

 ① 完全支配関係(持株比率が100%)

 ② 支配関係(持株比率が50%超100%未満)

 ③ 共同事業(持分割合が50%以下の法人間再編)

資本関係が薄くなるにつれて、適格要件のハードルが上がり、実務上、満たしづらくなります。

それでは、具体的に見ていきましょう。

①完全支配関係(持株比率が100%)における適格要件

完全支配関係における合併・株式交換・株式移転が適格組織再編とされるためには、金銭等不交付要件と支配関係継続要件を満たす必要があります。

完全支配関係における会社分割が適格組織再編とされるためには、金銭等不交付要件と支配関係継続要件に加えて、按分型要件を満たす必要があります。

②支配関係(持株比率が50%超100%未満)における適格要件

持株比率が50%超100%未満における合併・株式交換・株式移転が適格組織再編とされるためには、金銭等不交付要件と支配関係継続要件と従業者引継要件と事業継続要件とを満たす必要があります。

持株比率が50%超100%未満におけるスクイーズアウトが適格組織再編とされるためには、支配関係継続要件と従業者引継要件と事業継続要件とを満たす必要があります。

持株比率が50%超100%未満における会社分割が適格組織再編とされるためには、金銭等不交付要件と支配関係継続要件と従業者引継要件と事業継続要件に加え、按分型要件と主要資産等引継要件とを満たす必要があります。

③共同事業を行うための組織再編の適格要件

元々支配関係がない状態からの合併が適格組織再編とされるためには、金銭等不交付要件と従業者引継要件と事業継続要件と事業関連性要件と株式継続保有要件を満たした上で、事業規模要件、又は、特定役員引継要件のどちらかを満たす必要があります。

元々支配関係がない状態からの株式交換・株式移転が適格組織再編とされるためには、金銭等不交付要件と従業者引継要件と事業継続要件と事業関連性要件と株式継続保有要件と完全親子関係継続要件を満たした上で、事業規模要件、又は、特定役員引継要件をのどちらかを満たす必要があります。

元々支配関係がない状態からの会社分割が適格組織再編とされるためには、金銭等不交付要件と従業者引継要件と事業継続要件と事業関連性要件と株式継続保有要件の他に、按分型要件と主要資産等引継要件を満たした上で、事業規模要件、又は、特定役員引継要件のどちらかを満たす必要があります。

スピンオフの適格要件

スピンオフが適格組織再編とされるためには、非支配関係要件と金銭等不交付要件と従業者引継要件と事業継続要件の他に、按分型要件と主要資産等引継要件を満たした上で、特定役員引継要件を満たす必要があります。

組織再編税制における繰越欠損金の扱い

繰越欠損金とは、青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金を、翌年度以降における法人所得の計算で損金に算入できる制度です。
適格合併による組織再編成等では、繰越欠損金を承継できるケースがあります。
繰越欠損金を承継するには要件を満たさなければなりません。

完全支配関係又は支配関係がある適格合併のうち、支配関係が適格合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日から継続していれば、繰越欠損金を承継可能です。

支配関係の継続期間が不足しているならば、みなし共同事業要件を満たす場合であれば、繰越欠損金の承継が可能です。

みなし共同事業要件を満たすには、具体的には、次の①~④のいずれかか、①および⑤を満たせばよい。

①事業関連性要件

➁事業規模要件

➂被合併法人の事業規模継続要件:被合併事業が被合併法人支配関係発生時からその適格合併の直前の時まで継続して営まれており、かつ、その被合併法人支配関係発生時とその適格合併の直前におけるその被合併事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと。

④合併法人の事業規模継続要件:合併事業が合併法人支配関係発生時からその適格合併の直前の時まで継続して営まれており、かつ、その合併法人支配関係発生時とその適格合併の直前の時におけるその合併事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと。

⑤特定役員引継要件

組織再編税制の税制適格要件を満たすメリット

ここからは税制適格要件を満たした組織再編を行うメリットをご紹介します。

株主のメリット

株主が出資した金額よりも、株式の譲渡価額が高い場合は、譲渡価額から出資額を引いた差額から譲渡所得やみなし配当が発生し、通常は課税されます。
しかし、税制適格要件を満たした組織再編の場合、譲渡損益を繰り延べられることとなります。

資産を渡す法人のメリット

合併消滅法人や分割法人のように資産を合併吸収法人や分割承継法人に渡す側の法人の場合、原則としては、時価で資産を譲り渡した後に会社を清算したものとして取り扱われます。
しかし、税制適格要件を満たす場合、組織再編時に時価評価資産の時価評価課税は行われません。

資産を受け取る側のメリット

合併法人や分割承継法人などの資産を受け取る側の会社では、原則として、時価で資産を購入し、対価を支払ったとして取り扱われます。
しかし、税制適格要件を満たす場合には、簿価で資産を引き継いだとみなされます。

組織再編成にかかる否認規定

法人税法では、適格組織再編となる場合であっても、課税上の弊害を避けるため、繰越欠損金の承継などについて、個別的な否認規定を設けています。
さらに、組織再編成の形態や方法は、複雑かつ多様であり、資産の売買取引を組織再編成による資産の移転にするなど、租税回避の手段として濫用されるおそれがあるため、個別的な否認規定に加えて、組織再編成にかかる包括的な租税回避防止規定も設けられています。

まとめ

今回は組織再編税制およびその税制適格要件について詳しく説明しました。

組織再編税制は複雑な規定が多く、わずかな再編手順の違いで税務上の取扱いが大きく異なるケースがあります。
加えて、頻繁に税制改正がなされる分野であることにも留意が必要です。

適格・非適格の判定結果は、移転する資産・負債の評価方法と、それに伴う課税関係に影響を及ぼすことになりますが、それ以外にも、繰越欠損金の引継制限・使用制限といった、実務上、非常に重要な論点へも影響することに注意が必要です。

様々な法律が複雑に関係する組織再編ですが、税務的視点はスキームを考えるうえで、極めて重要な部分です。

今回の記事が皆様の組織再編税制への理解を深める一助となれば幸いです。