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事業承継税制の特例措置で絶対に必要!特例承継計画の書き方とは

事業承継税制の特例措置で絶対に必要!特例承継計画の書き方とは

写真:メモを取る人

この記事では、「事業承継税制の適用を受けるためには何か計画を作成しないといけないと聞いたが、どういう計画を作成すればいいの?」という疑問をお持ちの方や、「特例承継計画の書き方がよくわからない。詳しく教えてほしい」という方向けに、事業承継税制や特例措置の概要に触れた上で、事業承継の特例措置で必要となる特例承継計画の書き方について、特例承継計画の概要や提出前後のステップを踏まえて解説します。

この記事の結論

写真:説明をする男性

事業承継税制のうち「特例措置」の適用を受けるためには、「特例承継計画」と呼ばれる計画を策定し、税理士などの認定経営⾰新等⽀援機関による指導と助言を受けた上で、期限までに都道府県庁へ提出する必要があります。

特例承継計画のうち会社が記入するのはA4用紙で2枚程度の分量です。記入すべき分量は多くないものの、会社の基礎情報に加えて、後継者が株式を取得するまでの経営上の課題とその対策や、後継者が株式を取得した後5年間の経営計画を記入する必要があるので、どう記載したらよいか悩んで作成にかなりの時間がかかる経営者の方も多くいます。書き方に悩んだ場合は顧問税理士や各地の商工会議所に相談することをおすすめします。

事業承継税制の特例措置とは

事業承継税制とは

まずは、「事業承継税制」の概要について簡単に解説します。

「事業承継税制」とは、会社や個人事業の円滑な事業承継を目的とした税制です。事業の後継者に対してその会社の株式や個人事業の資産を贈与した場合や相続(遺贈を含む。以下同じ)させた場合、その後継者は原則として贈与税または相続税をこれらの申告期限までに現金で納付する必要があります。ただ、事業の後継者が事業の承継をする時点で十分な納税資金を持っていることは稀であり、「納税ができない」ことを理由に事業の承継を諦めて廃業する、というケースが多く見られました。

事業承継税制は、事業承継の税負担が原因で地域の雇用や経済を下支えする中小企業や個人事業が廃業に追い込まれることを避けるために制定されました。事業承継税制の適用を受けることによって、事業の後継者が贈与や相続によって取得した法人の株式や個人事業の資産にかかる税金の納付が猶予され、更に一定の条件を満たした場合はその納付が免除されます

事業承継税制には会社の株式など対象とする「法人版事業承継税制」と、個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版事業承継税制」があります。この記事では、このうち「法人版事業承継税制」について解説します(以下、法人版事業承継税制を単に「事業承継税制」といいます)。

事業承継税制については別記事で詳しく解説しているので、こちらの記事も合わせてご覧ください。

「事業承継税制とは?税理士が基礎からわかりやすく解説します!」

一般措置と特例措置

事業承継税制には、「一般措置」と「特例措置」の2つがあります。このうち一般措置は事業承継税制導入当初からある措置で、特例措置は2018年度(平成30年度)税制改正で新設された措置です。

特例措置が導入される前(一般措置のみの時代)における事業承継税制は、様々な制約や使い勝手の悪さから、十分に活用されているとは言い難い税制でした。これでは会社や個人事業の円滑な事業承継が進まないという意見を受けて2018年度税制改正で導入されたのが特例措置です。特例措置は一般措置における制約や使い勝手の悪さをほぼ解消した画期的な措置ですが、次の2点に注意が必要です。

ž事前の計画(特例承継計画)の策定が必要である点

ž適用期限がある点

このうち「事前の計画(特例承継計画)の策定が必要である点」についてはこの記事で詳しく解説します。「適用期限がある点」については別記事で詳しく解説しているので、こちらの記事も合わせてご覧ください。

「事業承継税制の適用期限は?特例措置の適用を受ける場合は要注意!」

以上、事業承継税制の概要について簡単に解説しました。次のセクションでは、特例承継計画の概要と特例承継計画を提出する前後のステップについて解説します。

特例承継計画とは

特例承継計画とは

特例承継計画とは、事業承継税制の特例措置の適用を受けるために策定する計画のことです。特例措置の適用を受けるためには、特例承継計画を策定した上で、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の認定を受けるための申請書にこれを添付して、期限までに申請企業の主たる事務所(本店所在地)の所在する都道府県へ提出する必要があります。

なお、特例承継計画の提出は事業承継税制の特例措置の適用を受けるための必須要件ですが、特例承継計画を出したからといって贈与や相続の際に事業承継税制の適用を受ける義務はありません。将来、事業承継税制の適用を受ける可能性が少しでもあれば、「とりあえず出しておく」ことをおすすめします。

また、事業承継税制の適用を受けるための要件は多岐に渡りますが、特例承継計画の提出時にこれらの要件を全て満たしている必要はありません。事業承継税制の適用を受けるまでに満たせば良い要件もありますので、詳しくは税理士などの専門家にご相談ください。

特例承継計画はいつまでに出すの?

2024年9月現在の法令においては、特例承継計画を都道府県庁へ提出できるのは2026年(令和8年)3月31日までですが、この期限を過ぎてしまった場合、現行法の下では特例措置の適用を受けることができなくなってしまうので注意が必要です。

特例承継計画を提出するまでのステップ

特例承継計画を都道府県庁へ提出するまでのステップは次のとおりです。

①会社で特例承継計画を作成する
②会社が作成した特例承継計画について、「認定経営革新等支援機関」(以下、「支援機関」といいます)による指導と助言を受ける
③支援機関の指導と助言を受けたあとの特例承継計画を添付資料及び返信用封筒とともに都道府県庁へ郵送する

まず①について、特例承継計画は会社が作成します。特例承継計画には後継者の⽒名、事業承継の予定時期、承継時までの経営⾒通し、承継後5年間の事業計画などを記入する必要があります。具体的な記載内容や様式などについては後ほど解説します。

次に②について、会社が作成した特例承継計画について、⽀援機関による指導と助言を受け、特例承継計画の別紙にその機関の名称、指導・助言を行った年月日、及び指導・助言の内容を記載してもらう必要があります。

⽀援機関に該当するのは、税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援に係る実務経験が一定レベル以上の個人、法人、中小企業支援機関等で、具体的には認定を受けた税理士、公認会計士、弁護士や各地の商工会議所などです。会社に顧問税理士がいればその税理士に指導と助言を受けることでこのステップを完了することができます

顧問税理士をつけておらず、誰から指導と助言を受ければよいか分からない方は、中小企業庁の「認定経営⾰新等⽀援機関検索システム」を使えば、都道府県別の支援機関を検索することができます。

参考:中小企業庁 認定経営⾰新等⽀援機関検索システム

https://ninteishien.force.com/NSK_CertificationArea

最後に③について、次の書類などを封筒に入れて会社の主たる事務所のある都道府県に郵送します。

ž認定経営⾰新等⽀援機関の指導と助言を受けたあとの特例承継計画2部(原本と写し)
ž申請会社の履歴事項全部証明書の原本(確認申請⽇の3ヶ⽉以内に取得したもの)
ž返送先宛先を記入した返信用封筒(定形外封筒)

「申請会社の履歴事項全部証明書の原本」は全国の法務局窓口またはオンラインで請求し、窓口または郵送で受領します。オンライン請求の手数料は窓口請求よりも100円安い上、郵送で受領すればわざわざ法務局まで出向く必要もないため、時間に余裕があればオンライン請求・郵送受け取りの方法をおすすめします。詳しい手続きの方法などは法務局ホームページをご確認ください。

参考:法務局 オンライン申請のご案内

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/shomeisho_000002.html

また、都道府県ごとの郵送先は下記のリンクで確認することができます。

参考:中小企業庁 経営承継円滑化法申請マニュアル認定・申請等に関する窓口について

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku/manual_1.pdf
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku/shoukei_zeisei_madoguchi.pdf

たとえば東京都に本店がある会社の場合は、東京都産業労働局商⼯部経営⽀援課事業承継税制担当宛に郵送します。宛先住所は、検索エンジンに「東京都産業労働局商⼯部経営⽀援課事業承継税制担当」と入力すると確認できます。東京都の場合の送付先は〒163-8001東京都新宿区西新宿二丁目8番1号です(2024年9月現在)。

参考:東京都産業労働局 事業承継税制の認定
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/chushou/shoko/keiei/jigyoshokeizeisei/

なお、返信用封筒として「レターパック」を指定する都道府県(たとえば東京都や大阪府)もあるので、提出前に提出先都道府県のホームページを確認することをおすすめします。

出典:大阪府 特例承継計画について

https://www.pref.osaka.lg.jp/keieishien/keieisyoukeienkatuka/tokureisyo.html

特例承継計画を提出したあとのステップ

特例承継計画を都道府県庁へ提出したあとのステップは次のとおりです。

①特例承継計画について知事の確認を受ける
②贈与が行われる、もしくは相続が生じる
③一定の期間内に都道府県へ認定申請を行う
④税務署へ贈与税または相続税の申告を行う

まず①について、特例承継計画について都道府県知事の確認を受ける必要があります。確認作業には通常2ヶ月から3ヶ月程度の時間を要します。

次に③について、②で贈与が行われたまたは相続が生じたあと、次の期間内に都道府県へ認定申請を行います。この認定申請には特例承継計画を添付する必要があります。

贈与の場合

贈与年の10月15日から贈与年の翌年1月15日まで

相続の場合

相続の開始の⽇の翌⽇から数えて5ヶ⽉後の日以降8ヶ月後の日まで

なお、特例承継計画策定前に贈与または相続が行われても問題ありません。この場合は、認定申請時までに特例承継計画を策定する必要があります。

最後に④について、事業承継税制の適用を受けるためには贈与税または相続税の申告期限までに贈与税または相続税の申告書を提出する必要があります。「都道府県知事による認定を受けること」が手続きのゴールではない点、ご注意ください。

なお、贈与税または相続税の申告を行う際は納税が猶予される税額及び利子税に見合う担保を提供する必要があります。この点、事業承継税制の適用を受ける会社の株式の全てを担保として提供したときは「納税が猶予される税額及び利子税に見合う担保」の提供があったものとみなされるため、実務上は株式を担保にすることがほとんどです。

以上、特例承継計画の概要と特例承継計画を提出する前後のステップについて解説しました。次のセクションでは、特例承継計画の書き方について解説します。

特例承継計画の書き方

フォーマット(様式)はあるの?

特例承継計画のフォーマット(様式21)は中小企業庁ホームページで入手することができます。ワードファイルの形式で提供されているので、ダウンロードして加工することが可能です。なお、フォーマットは税制改正等によって今後も更新される可能性があるため、最新のフォーマットを中小企業庁ホームページから入手することをおすすめします。

参考:中小企業庁 法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_tokurei_yoshiki.htm

何を書けばいい?

特例承継計画(様式21)に書くべき事項は次のとおりです。

ž会社の基本情報(所在地、会社名、事業内容、資本金、従業員数など)

ž特例代表者(事業承継税制の適用を受けて事業を承継させる人)の氏名

ž特例後継者(事業を承継する人のうち事業承継税制の適用を受ける人)の氏名

ž特例後継者が株式を取得するまでの経営上の課題と当該課題への対応

ž特例後継者が株式を取得したあと5年の経営計画

様式21に記載されなかった人は事業承継税制の適用を受けることができないので、「特例後継者」の欄に誰の名前を記入するかは慎重に考える必要があります。

次のケースを例に、具体的な記載内容について解説します。

会社住所〒390-0815 長野県松本市深志1丁目1-★
会社名長野松本新製菓株式会社
電話番号0263-35-XXXX
代表者氏名松本一郎(代表取締役社長)
会社の事業内容製菓業
資本金額1,000万円
従業員数役員2名、正社員15名、パート・アルバイト30名
後継者氏名松本次郎(代表取締役副社長)
株式を譲渡する時期未定(令和4年から令和5年ごろ?)

まず、1枚目から解説します。1枚目のフォーマットは次のとおりです。なお、下記で紹介しているフォーマットは2022年時点のものですが、2024年9月現在においても記入すべき内容に変更はありません(変更点は、文書のタイトルが「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第17条第2項の規定による確認申請書(特例承継計画)」に変わったことと、頭書き部分に「(以下、「施行規則という。)」が追加されたのみです)。

画像:様式第21

1枚目の具体的な記入例は次のとおりです。吹き出しの箇所が注意点です。

画像:様式第21 記入例

次に2枚目のフォーマットは次のとおりです。

画像:様式第21

2枚目の具体的な記入例は次のとおりです。吹き出しの箇所が注意点です。経営上の課題、課題への対応、特例後継者が事業を承継してから5年間の事業計画については、具体的な数字ベースで記入しなくても問題ありません。特に5年間の事業計画はおおざっぱな計画(たとえば「新店舗を出店する」など)で構いませんが、公序良俗に反することは記入しないほうがよいでしょう。

画像:様式第21 記入例

中小企業庁のホームページに様式21の記載例が公開されていますので、どのくらいの記載レベルが求められるか知りたい方は確認されるとよいでしょう。

手伝ってくれる人はいる?

特例承継計画は会社で作成するものですが、「経営課題や事業承継後の経営計画を記載せよ」と言われてすんなり記入ができる経営者ばかりではなく、むしろ「どう書けばいいのだろう」と悩む経営者の方が多いのではないでしょうか。

会社に顧問税理士がいる場合は、その税理士に相談することをおすすめします。会社のことをよく知っている顧問税理士であれば、記入する内容のアイデアやヒントを持っているかも知れません。

顧問税理士がいない会社の場合は、付き合いのある金融機関や商工会議所に相談することをおすすめします。認定を受けている金融機関であれば、⽀援機関による指導と助言もスムーズに受けることができます。

以上、特例承継計画の書き方について解説しました。最後のセクションでは、特例承継計画の内容に変更があった場合の対応について簡単に解説します。

特例承継計画の内容に変更があった場合の対応

何をすればいい?

まず、特例後継者を変更する場合は、「変更確認申請書(様式24)」を都道府県庁へ提出する必要があります。この場合は、もう一度⽀援機関による指導・助言を受ける必要があるのでご注意ください。様式24は中小企業庁ホームページにあります。

また、経営上の課題、課題への対応、または後継者の5年間の経営計画を変更する場合も、もう一度⽀援機関による指導・助言を受けた上で、様式24を提出することができます。

以上の内容を次の表にまとめました。

変更する事項
様式24の提出
⽀援機関による指導・助言
特例後継者
必須
必要
経営上の課題、課題への対応、または特例後継者の5年間の経営計画
任意
必要(任意提出する場合)

変更確認申請書(様式24)の書き方は?

様式24は、1枚目の一部が少し変わっている以外は様式21と同じです。1枚目のフォーマットは次のとおりです。なお、下記で紹介しているフォーマットは2022年時点のものですが、2024年9月現在においても記入すべき内容に変更はありません(変更点は、文書のタイトルが「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第18条第5項の規定による変更確認申請書」に変わったことのみです)。


画像:変更確認申請書(様式24)

本文の日付は当初の確認を受けた日付を記入します。また、「施行規則第18条」のチェックボックスは次のとおりチェックを入れます。

特例後継者の変更の場合
第1項
経営上の課題、課題への対応、または特例後継者の5年間の経営計画の変更の場合
第2項

このうち、様式24を提出する義務があるのは第1項の場合です。経営上の課題、課題への対応、または特例後継者の5年間の経営計画の変更の場合は、様式24を提出してもしなくてもどちらでも問題ありません。

まとめ

以上、事業承継の特例措置で必要となる特例承継計画の書き方について、特例承継計画の概要や提出前後のステップを踏まえた上で解説しました。

特例承継計画に記入すべき分量は多くありませんが、「特例後継者」として誰の名前を書くか、「事業承継前の経営課題や事業承継後の経営計画」をどう書くかの2点は非常に悩ましい問題です。悩んだ際は、ぜひ顧問税理士にご相談することをおすすめします。