HOME コラム > 株式移転による持株会社設立|資本金の決め方

コラム

株式移転による持株会社設立|資本金の決め方で考慮すべきことは?

導入

近年、グループ経営の効率化やさらなる成長、あるいは事業承継対策を目的として、株式移転による持株会社(ホールディングス)体制への移行を検討する企業が増えています。株式移転は、既存の会社を子会社化し、新たに親会社を設立する組織再編の手法ですが、実務において頭を悩ませるのが「新設する親会社の資本金をいくらに設定するか」という点です。

資本金の額は、単なる登記上の数字ではありません。対外的な信用力はもちろん、法人税の優遇措置や維持コスト、さらには設立時の登録免許税にまで大きな影響を及ぼします。本記事では、株式移転における資本金決定の重要性と、判断の鍵となる会計・税務上のポイントを分かりやすく解説します。

この記事の結論

株式移転による持株会社設立において、新設親会社の資本金決定は経営コストと税負担を左右する極めて重要なプロセスです。

主な判断基準として、まず法人税法上の「1億円の壁」があります。資本金を1億円以下に設定すれば、所得800万円以下の部分への軽減税率(15%)適用や、年間800万円までの交際費定額控除といった中小法人向け優遇措置を享受できます。一方、会社法上、資本金が5億円以上になると「大会社」に該当し、会計監査人の設置義務に伴う監査費用や内部統制整備の負担が増大します。

また、設立時の登録免許税は資本金額の0.7%(最低15万円)が課されるため、資本準備金を活用して登記上の資本金を抑える実務も有効です。対外的な信用力と、これらの具体的な維持・設立コストを天秤にかけ、グループの成長戦略に合致した資本規模を選択する必要があります。

株式移転における資本金決定の重要性

株式移転とは?

株式移転とは、株式会社が発行している株式のすべてを新たに設立する会社に取得させ、当該新設会社の子会社になる組織再編行為をいいます。会社法においては、「一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう」と定義されています(会社法2条32号)。

株式移転が選択される主な場面は、持株会社(ホールディングス)によるグループ経営を行う体制への移行時です。たとえば、エレクトロニクス商社である株式会社リョーサンと半導体商社である菱洋エレクトロ株式会社は、共同株式移転の方法により共同持株会社(リョーサン菱洋ホールディングス株式会社)を設立して経営統合を行いました。

参考:株式会社リョーサン 臨時報告書
https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100S12O.pdf

この他、2社が共同で株式移転を行った事例としては佐鳥電機株式会社と萩原電気ホールディングス株式会社が持株会社(MIRAINIホールディングス株式会社)を設立する事例が、1社が株式移転を行った事例としては環境のミカタ株式会社が環境のミカタホールディングス株式会社を株式移転完全親会社とする株式移転を実施した事例があるなど、株式移転はよく使われる組織再編行為の一つです。

株式移転の税務上の取り扱いについて、株式移転が税制適格であっても税制非適格であっても、株式移転完全子法人の株主においては原則として影響がありません(株式移転完全子法人の株式を株式移転完全親法人へ譲渡した対価として、株式移転完全親法人の株式以外の資産を取得する場合は除きます)。

一方、株式移転完全親法人においては税制適格か非適格かによって資本金等の計上額に影響がある他、株式移転完全子法人においては非適格株式移転に該当する場合は一部の資産を時価評価する必要が生じる点に注意が必要です。

資本金決定の重要性

持株会社を設立する際の資本金設定においては、キャッシュフローや事業計画、周辺環境を総合的に考慮し、税務上のメリットと対外的な信頼性のバランスを慎重に見極めることが極めて重要です。資本金の額は単なる形式的な数字ではなく、その後の経営における維持コストや取引先からの評価に直結するため、まずは全体像を見据えた戦略的な判断が求められます。

特に重視すべき点の一つが、対外的な信頼性の確保です。資本金は会社の体格や責任準備金としての側面を持っており、金融機関からの融資審査や新規取引先との契約において、一定以上の資本金額が一種のステータスや信用力として求められるケースは少なくありません。特に、グループ全体を統括する持株会社としての威信を示す必要がある場合や、将来的な株式上場を視野に入れている場合には、相応の資本規模を確保しないと経営上の障害となる可能性もあります。

また、最適な資本金の額は、営む事業の性質やグループの成長戦略によっても大きく異なります。例えば、ブランドイメージを重視する業種や、許認可の関係で特定の資本金要件が課されている場合には信頼性を優先した設定が必要になりますが、一方で、大規模な設備投資を必要としない管理特化型の持株会社であれば、実利面を優先した検討が可能です。このように、業種や目的に応じたバランスを考慮することで、グループにとって最適な資本規模を導き出すことができます。

なお、資本金の額を抑えることで、法人税法上の中小法人と判定され、税率の軽減や交際費の損金算入限度額などの税制上の優遇措置を受けられる可能性が高まります。これら税負担に関する具体的なメリットや詳細な条件については、次のセクションで詳しく解説しますが、節税効果と社会的信用のどちらを優先すべきかを慎重に検討することが、円満なグループ経営の第一歩となります。

資本金の額の決定における考慮事項

会計・会社法の観点

株式移転によって持株会社を設立する際、資本金の額をいくらに設定するかは、会計および会社法のルールを勘案して検討することが重要です。

株式移転により設立する持株会社の資本金等の額は原則として株式移転完全子会社の純資産額(適格株式移転の場合は簿価純資産額)を基礎として計算され、このうち資本金の額は会社計算規則の定めに従い、株式移転計画において資本金として計上しない額を資本準備金(または利益準備金等)として計上することが認められています。この規定を活用することで、登記上の資本金の額を抑えつつ、純資産の厚みを確保することが可能です。

また、会社法上の大会社に該当するかどうかも重要な判断基準となります。会社法では、資本金5億円以上、または負債総額200億円以上のいずれかに該当する株式会社を大会社と定義しています(会社法2条6号)。会社法上の大会社になると、新たに会計監査人の設置が義務付けられ(会社法328条)、公認会計士または監査法人による外部監査を受ける必要が生じます。これに伴い、監査費用の発生や内部統制の整備など、管理コストや実務負担が大幅に増大することになります。

さらに、大会社には貸借対照表に加え損益計算書の公告義務が生じるなど(会社法440条1項)、情報開示の範囲も広がります。したがって、持株会社の資本金を決定するにあたっては、資金調達や対外的な信用力の観点だけでなく、大会社に該当することによるガバナンス体制の変更や維持コストの増加を十分に考慮し、グループの規模に見合った適切な額を設定することが求められます。

法人税の観点

持株会社を設立する際、「資本金の額が1億円以下かどうか」という点は法人税の観点から非常に重要です。法人税法上、期末時点の資本金の額が1億円以下の法人は、大法人による完全支配関係がある場合などを除き税制面で優遇措置を受けることができます。

大きなメリットとして挙げられるのが、法人税の軽減税率の適用です。通常の法人税率は23.2%ですが、中小法人に該当すれば、年800万円以下の所得金額に対して15%の軽減税率が適用されます。特に設立初期など、所得が一定の範囲に収まるステージでは、この税率差がキャッシュフローに大きな影響を与えます。また、交際費等の損金算入についても、中小法人は年800万円までの定額控除限度額を選択できるため、積極的な営業活動や情報収集を行う持株会社にとっては有利に働きます。さらに、欠損金の繰越控除制度においても有利な取り扱いがあり、通常の大法人が所得の50%までしか控除できないのに対し、中小法人は所得の100%を限度として控除することが可能です。これにより、赤字が発生したとしても将来の黒字と相殺し、早期に税負担を軽減させることができます。

登録免許税の観点

株式移転により持株会社を設立する際の実務的なコストとして忘れてはならないのが、設立登記の際に納付する登録免許税です。登録免許税の額は、原則として登記する資本金の額に一定の税率を乗じて計算されるため、資本金の額を低く抑えることは、設立時における直接的なコストダウンにつながります。

株式会社の設立登記に要する登録免許税の額は、原則として資本金の額の1,000分の7(0.7%)であり(登録免許税法別表第一24号(一)イ)、たとえば資本金の額が1億円のときの登録免許税額は70万円です。なお、申請1件あたりの登録免許税額は最低15万円であるため、たとえば資本金の額が1,000万円のときは7万円と計算されますが、実際に必要な金額は15万円です。

このように、資本金の額をいくらにするかによって、設立時に負担する登録免許税の総額は変動します。前述した会社法上のガバナンスコストや法人税法上の優遇措置と併せて、この設立時コストも考慮に入れることが重要です。登録免許税を最小限に抑えたい場合は、最低限必要な金額を資本金として設定し、残りを資本準備金に計上するといった実務的な工夫が有効です。

なお、2027年3月31日までに、産業競争力強化法における事業再編計画の認定を受ける等の要件を満たすことにより、株式会社の設立登記に要する登録免許税の額が原則の半分である0.35%に軽減されます(租税特別措置法80条1項1号。ただし限度額があります)。詳細は経済産業省の資料をご参照ください。

参考:経済産業省 産業競争力強化法における事業再編計画の認定要件と支援措置について
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/gaiyouR6r.pdf

まとめ

株式移転による持株会社の設立を行う際、持株会社の資本金の額を十分な検討なく決めてしまうのは禁物です。1億円という境界線による税制メリットの享受や、5億円以上となることによる会計監査義務(大会社該当)の発生など、資本金の額一つでその後の経営コストやガバナンス体制は大きく変化します。

最適な資本金の額は、企業グループの事業計画や所属する業界、あるいは成長ステージによって異なります。ぜひお近くの税理士などの専門家へ相談し、最適な資本金の額を検討することをお勧めいたします。